2024-06-26 燃えてゆくページ、別の時間を繋げる
西の部屋の窓の下にクッションを重ねて本を読む。陽の落ちる時間なので少し暗く、目を上げると向かいの壁に葉陰が流れるように揺れている。読み始めたもののしばらく中断してしまった本なので、また最初から読む。忘れちゃったなと思いながら無理に進むよりも、思い切ってリセットしてしまったほうが結果的には早く、たくさんのものを持ってこれる。
夕陽が移動して壁に揺れる光が橙色になる。太陽はあんなに遠くに沈むのに、私の部屋の小さい窓からまっすぐに差し込んで葉っぱをひとつ残らず照らし、薄く、濃くざわめかせる。気づくと開いていた本の上にも夕陽が焦点をむすんで揺らめいていた。文字の上に薄く映像を重ねているみたいにも見えたし、そのページ自体が熾火のように徐々に燃えているようにも見えた。
本を投げ出してSを呼び、光が揺らめいているのを一緒に眺める。夏至のあとの、まだ夕方は長いけれどこれから短くなってゆく予感のするこの時が好き。
誰かと会話をしながら、水面下に潜って何かを辿ろうとしている時がある。見えないし波もないのに、何を手がかりにそれだと分かるのか、それはもしかしたら私が人の失くし物を発見するプロセスと似ているんじゃないかという気がする。出来事や言葉や意識的な記憶のような表面には残らず沈んでいくものがそこにはあって、それは気にするほどでもない違和感だったり、そのあとの出来事に流されてしまうほど小さな記憶の映像だったり、からだの奥底だけが震えたけれど何だったのかわからなかったような、そんな断片。それを手探りしに行っている。
今話しているその人、現在受け取った感覚というよりは、私のなかに沈んだ過去の時間に立ち入りながら、でも同時に表面の私が受け取っていることも紐解こうとする。現在に触れながら、他のいつかの時間に、または他の階層にもう一方の手を伸ばしている感じ。